結局のところ、デザイン思考の改良版。ビジョン思考はムーンショットだと述べているように、独創性がないという意味ではないが、権威付けするために先人の技法を持ち寄って、点を線にしたところに意義がある。デザイン思考に過去からあった手法を組み合わせて、デザイナーの思考パターンをフレームワークにしたものと喝破した著者ならではの展開。役立つのかは不明だが、突破するデザインとかSPの方が良いと思う。
デザイナーであって芸術家ではないので、万民受けを狙い、万民におもねる。
流行作家、カレーのルーとかだな。だから、山脈にいる芸術家のメタファーをだし、ここを目指そう。目指すためには、本書のビジョン思考が必須だという論法になる。
さて、内容のまとめ。
戦略とは、理想とする状態を定義し、現状とのギャップを埋めるための道筋を見つけること
デザインとは、いまだに存在しない概念(道)を具体化していく手法
ビジュナリーは、途方もないビジョンを駆動力にしながらも、
同時に直感を論理につなぎ、妄想を戦略に落とし込む。
ビジョン戦略=直感と論理をつなぐ思考法
思考の領域を①カイゼン思考、②戦略思考、③デザイン思考に整理して、
VUCAの世界のためにビジョン思考を提案している。
ビジョン思考は自らの妄想を形にする考え方で、
妄想力を鍛える具体的な手法について書かれている。
カイゼンの世界では、KPI至上主義。ひたすらPDCAを回していくやり方は、VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)の時代にはついていけなくなってる。
VUCAの世界では、正解が見つからないのではなく、正解が存在しない。
「いかに答えを探すか」ではなく、「そもそも答えなどない」という前提で動く。
戦略の世界では、MECE至上主義。陣取り合戦。データに依存して新しい価値を生み出せない。データがない世界では無力。
デザインの世界では、みんなで共創していく。これは「他人モード」に偏りがちで自分が見えなくなっていく
デザイン思考
デザイナーが一定の制作物を生み出すときに行う思考プロセスを抽象化し、ビジネスの世界でだれでも利用できる形に落とし込んだフレームワーク。
①手を動かして考える→プロトタイピング→考えるために作る→構築主義
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②五感を活用して統合する→両脳思考→Lモード(言語脳)とRモード(イメージ脳)を往復運動する。
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VAK(Visaul(視覚)、Auditory(聴覚)、Kinesthetic(体感覚))モデル→どの五感を優先的に使っているかは個人によって異なる。
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③生活者の課題をみんなで解決する→人間中心共創
デザイン思考は人々の共通する課題解決には向いている。
半面、つくりての個性や世界観の表現が制限されてしまう。
「人の役に立つのがうれしい」と思って続けていると、いつのまにか「自分がなくなっている」ことに気づく。
個人がフラットにビジョンを作る、ティール組織の時代には、ビジョン思考が必要。
4つの思考法
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まず縦軸になっているのが「クリエイティビティ」だ。
「カイゼン思考」は一定のKPIを前提としながら、それをどう高めるかを目的にしている。
また、「戦略思考」が意図するのは、いかに市場シェアを広げて、より多くの利益を上げるかである。
つまりどちらも、「既存の基準の範囲内で、パフォーマンスを高めていく」という点では共通している。端的に言えば、これは知性優位の「1→∞」の世界だ。
他方、これとは対照的に、「デザイン思考」や「ビジョン思考」では感性優位の「0→1」の創出が目指されている。
次に横軸は、「動機」をめぐる違いである。
「カイゼン思考」や「デザイン思考」を突き動かしているのは、外的な問題・課題(イシュー)だ。
第1章 最も人間らしく考える
・かわるために、回り道が必要である。
世の中は転換期、つまり、トランジションの時期にある。
ウィリアム・ブリッジズの「トランジション理論」
「トランジション(transition、過渡期)」には、
①終わらせる段階、②ニュートラルな段階、③次のステージを探す段階がある。
ビジョン思考は、妄想 → 知覚 → 組替 → 表現の4つのサイクルを繰り返す。
・妄想(内省のキャンバス)→自分の内面・欲望・潜在意識と向き合い、「本当の関心」と出会う
・知覚(触発のキャンバス)→妄想の解像度を高め、絵や設計図にまとめ上げていく
・組替(飛躍のキャンバス)→アウトプットしたものを他人目線で眺め直し、独自のコンセプトを作
・表現(展示のキャンバス)→プロトタイプを作り、他者からのフィードバックを得て次へ活かす(プロボタイプ)
プロボタイプとは、provocation+prototypingの造語で、周囲のフィードバックから作られる、新たな考え方を表現した最小限のプロトタイプのこと。試作品としての完成度は度外視されるる。
ビジョン思考は習慣化する必要があり、そのために、ビジョン思考の「スペース(空間的、時間的余白)」とビジョン思考の「メソッド」が必要である。
第2章 すべては「妄想」からはじまる
本当に価値のあるものは妄想からしか生まれない→創造的緊張 MIT ダニエル・キム、カーネギメロン大学ジョージ・ローウェンスタイン
ビジョンを明確にして、ビジョンと現状との距離(ギャップ)を受け入れたときに初めて、ギャップを埋めるモチベーションが生まれる。
「妄想と現実とのギャップ」を認識しないと、人はクリエイティブモードにならない。
頑張れば実現可能な目標は、すでにある課題を解決していくイシュードリブンな思考法に有効。
途方もない目標は、理想状態から思考をドライブさせるビジョンドリブンな思考法に有効。
10%の成長ではなく10倍の成長を目指すムーンショット型アプローチは、 目標に行きつく過程で様々な技術が生まれ、世の中を変えることができる。
「問いかけ」
イシュードリブンでは、マイナスからゼロへと引き上げようとするドライブ(問題解決)
→どうすれば・・・・・できるだろうかという問いになる
ビジョンドリブンでは、ゼロからプラスを生み出そうとするドライブ(妄想駆動)
→もし・・・・・なら、どうなるかという問いになる
第3章 世界を複雑なまま「知覚」せよ
個人に合わせて「シンプル」に「わかりやすく」するほど視野は狭まっていき、思考や発想が無個性化する。
センス・メイキング(状況を感じ取り、意味を作り出すこと)の力が問われる。
センス・メイキング理論の3ステップ
感知:言語モードをオフにして、ありのままに観る
解釈:自分なりのフレームにまとめる、図や絵にして考える
意味づけ:まとめた考えに意味を与える
思考を発散させるために、まずは視覚だけからスタートする。
収束させていく時には言語情報が必要。視覚と言語を往復して考える。
第4章 凡庸さを克服する「組替」の技法
de-signとは、対象を構成要素に分解して、再び組み立てなおすこと
組替=分解+再構築
分解→あまのじゃくキャンバス
「当たり前」を洗い出す
「当たり前」の違和感を探る
「当たり前」の逆を考える
再構築→アナロジー思考
自分のアイデアに似てるものから発想を広げていく。
分解した要素から似ているもの(メタファー)を探し、そこからアナロジーを考える。
アナロジー→未知のAと既知のBの間の類似性Cを元に、Aの性質を類推すること
一定の時間制限やフォーマット制限の中で強制的に発想することが、再構築では有効。
デザイン思考のロールプレイのように、視覚だけでなく体感覚を使うのも良い。
第5章 「表現」しなきゃ思考じゃない!
RモードとLモードを反復すると、スピーディに具体化する
速さこそが質を高める。
①表現の動機付けをする→アウトプットせざるを得ない状況を作る
②表現をシンプルにする→メモには絵を入れる。一瞬で伝わる絵を用意する。→相手との知識との接点を作る
③表現に共感の仕掛けを作る→人を共感させるにはストーリー(英雄の旅フレーム)を使う。
・妄想を視覚化する「ビジョンスケッチp157」
・要素分解を行う「あまのじゃくキャンバスp188」
→あたりまえを洗い出す→あたりまえの違和感を探る→あたりまえの逆を考える
・メタファーを組み込んだ「アイディア・スケッチp201」
ヒーローズジャーニー(英雄の旅) by 神話学者ジョーゼフ・キャンベル
Calling「天命」
Commitment「旅の始まり」
Threshold「境界線」
Guardians「メンター」
Demon「悪魔」
Transformation「変容」
Complete the task「課題完了」
Return home「故郷へ帰る」
終章 「妄想」が世界を変える?
本当に価値のあるものは妄想からしか生まれない→創造的緊張 MIT ダニエル・キム
ビジョンを明確にして、ビジョンと現状との距離(ギャップ)を受け入れたときに初めて、ギャップを埋めるモチベーションが生まれる。
成功するプロジェクトと成功しないプロジェクトの違いは、「妄想」を持った人がいるかどうか。
VUCAな現代は変化が多いので失敗や障害も多く、結果が出るまでに長い停滞期がある。
それに耐えるには、「好き」や「関心」からなる「自分モード」を軸にすることが重要。
テクノロジーが進化する時代だからこそ、「何のためにテクノロジーを活用するのか?」という価値観が必要。
「真善美」という価値基準を、ビジネス・教育にも取り入れていくべき。
妄想をより大きくするために、「真善美」の観点から問いを設定してみる
真→妄想にとって正しいことは何か、その根拠は。
善→妄想により誰が幸せになるか。妄想をどう変えればより多くの人が協働できるか
美→自分にとって美しいものとは。妄想のどこに人は魅力を感じるか
妄想と社会との接点を作り、大きくしていく。