ホルモン放出ホルモン
脳の視床下部から分泌され、下垂体前葉に作用して特定のホルモンを放出させるホルモン
臓器間ネットワークの存在:
臓器はホルモンやサイトカインなどの物質を介して互いにメッセージを送り合い、連携している。
情報回路として神経は全ての臓器に繋がっているわけではない。血管も直接全ての細胞に繋がっているわけではないが、メッセージ物質は組織に滲み出し、ほぼ全ての細胞に行き渡る。
脳を頂点としない人体観:
臓器同士のネットワークが、生命活動を支える上で重要である。
臓器間のコミュニケーション:
臓器は単独で機能するのではなく、互いに影響を与え合いながら、バランスを保っている。
メッセージ物質の役割:
臓器から分泌されるメッセージ物質(ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質など)が、臓器間のコミュニケーションを可能にしている。
1.心臓
①「ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)
心臓が出したANPは、尿が作る臓器である「腎臓」が受け取り、尿の量を増やす。体の中を循環する血液の量には変動があり、多すぎるとポンプである心臓には負荷がかかりすぎる。そこで心臓は、ANPをメッセージとして発信して腎臓に知らせ、体内の水分を尿として排出してもらう。血液量が減ると、血圧も下がる。すると、心臓は楽になる。つまり、心臓がANPを出すのは「疲れた時」。負荷がかかった時ほど心臓はANPを大量に放出する。心臓と腎臓が連携することで、体を正常な状態に保っている。
②がんとANP
ANPはがんの転移を予防する。
ANPは血管の内皮細胞でも受け取られ、「血管を拡げろ」という指令となるメッセージ物質と考えられていたが、もう一つ、「血管の内側の壁をツルツルな状態に、きれいにする」という働きもあった。どちらも心臓を助けることに繋がる。この仕組みが、「肺ガンの転移の抑制効果」にも繋がった。
がん手術後には、少数ながらがん細胞が血液中に泳ぎだし、全身を回る。これらは数日で死滅するため通常は問題にならない。しかし、血管が傷んでささくれたところがあると、ガン細胞はそこから血管の外へ出て、周囲の組織に侵入、転移を果たす。そこで、手術の前後にANPを投与して血管の内側をきれいにしておくと、ガン細胞が血管から出られなくなり、転移を防ぐことになった。
一方、ささくれにも役割がある。血管内皮細胞は、わざわざフックのようなものを出している。血管内をパトロールしている白血球が血管の内壁にとりつくために必要なもの。血管内皮細胞はその時の状況に合わせてフックを出したり引っ込めたりと調節している。心臓が疲れた時に出すANPを受け取った時には、いったんフックを引っ込めて血管の内側をツルツルにして、心臓を助けてあげる。
2.腎臓
①腎臓が出すメッセージ物質「エポ」の働き
高地トレーニングは腎臓を鍛えている。
酸素が薄いと、肺で血液に取り込まれる酸素の量が減る。すると、血液中の酸素が減ったことを腎臓が検知し、「エポ」というメッセージ物質を大量に出す。エポを受け取るのは、骨髄で、赤血球の増産を始める。つまり、腎臓は、全身に酸素が行き渡る状態に引き戻す。これが続くと、骨髄では次第に鉄が不足する。そこで、赤芽球は、「鉄が欲しい」というメッセージ物質「エリスロフェリン」出す。これを受け取るのは「肝臓」。肝臓は蓄えていた鉄を放出する。さらに、「鉄は十分」というメッセージ物質「ヘプシジン」の放出量を減らす。すると、「腸」からの鉄分吸収量が増え、赤血球の増産に使われた鉄を補充することができる。肝臓が腸からの吸収量を日常的にコントロールしている。
②腎臓が出すもう一つのメッセージ物質、「レニン」
腎臓は血圧も調整している。レニンの働きは、心臓が出すANPとは逆で、全身の血管に働きかけて収縮させ、血圧を上げる。ダイレクトに血管に働きかけているわけではない。血液中で、他の臓器が出す物質と反応を繰り返し、最終的なメッセージに変化する。
③腎臓は「血液の管理者」
腎臓は、エポやレニンを使って全身によく語りかけると同時に、他の臓器からのメッセージを数多く受け取る、よく聞く臓器でもある。腎臓は糸球体で血液から毎日180リットルの原尿を作る。水分のおよそ99%が再吸収され、最終的な尿になるのは2リットルほど。一旦全ての成分を血液の外に出し、必要なものだけを戻している。全身からのメッセージ物質に応える形で、再吸収の量を変化させ、血液のあらゆる成分(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、マグネシウムなど)を正常範囲に保っている。
腎臓の目的はゴミ(尿)を出すことではなく、部屋(血液)をきれいにすること。腎臓は尿を作る臓器ではなく、血液を管理する臓器。
④腎臓が寿命を決める
血液中のリンが少ないほど長生きする傾向が見られる。「高性能な腎臓を持つ」ことが、寿命を決める重要な因子。
血液中のリン濃度の調節は、主に骨と腎臓が連携して行っている。骨が出すメッセージ物質「FGF23」は、体に必要なリンの量を伝える役目をしている。これを腎臓が受け取り、リンの排出量を決める。クロトー遺伝子は、腎臓で「FGF23の受容体」を作る遺伝子。「クロトー遺伝子」が壊れたことで、腎臓が骨の声を聞くための「耳」を失ったような状態で、全身のリンの状況が分からないため、適切な調節ができなくなっていた。そのため、老化の加速が起きていた。
3.脂肪・筋肉
①レプチンは「食欲を抑える」メッセージ物質
体重が増えると大量のレプチンが放出され、これを受け取った脳では食欲が抑制される。すると、食べる量が減るから脂肪も減る。脂肪が減れば、放出されるレプチンも減り、食欲がまた出る。「脂肪組織」が「脳」に指令すること。
肥満の人は、脂肪組織からレプチンを大量に出し続けていて、その効果が出なくなっている。そこにレプチンを薬でプラスしても意味はない。レプチンが、体重のホメオスタシスを生み出している。その働きに反した生活習慣が続くと、破綻が起き、肥満になる。
「グレリン」は「お腹が空いた」と知らせるメッセージ物質
グレリンは主に自律神経を介して脳に作用し、空腹感をもたらすと同時に、成長ホルモンの分泌を促す。脳が出すホルモンの指令系統に、胃が口出ししている。
②メタボリック・シンドロームは、脂肪細胞が出すメッセージ物質アディポカインによって引き起こされる慢性炎症
アディポサイトカイン(脂肪の細胞間情報伝達物質)の「炎症性サイトカイン」、具体的には、「TNFα」や「インターロイキン」などが伝えるメッセージは、肥満になると、脂肪細胞がこの危険信号をまき散らす。脂肪細胞が出した炎症性サイトカインを受け取った免疫細胞は、臨戦態勢にはいる。全身の免疫細胞が活性化されていく。ウイルスや細菌の感染がないにもかかわらず、全身の免疫が過剰に活性化している状態は、「慢性炎症」と呼ばれる。
③メッセージ物質「マイオカイン」
筋肉からIL6(インターロイキン)6(TNFαと並ぶ炎症性サイトカインの代表格)を出すことで、いったんTNFαの放出を抑え込み、すぐにIL6を止めて、慢性炎症の拡大を防いでいる。
4.骨
①オステオカルシン
臓や腸、肝臓、脂肪など、たくさんの臓器に働きかけて「インスリン」や「インクレチン」など、糖尿病の発症に影響する他のメッセージ物質の量を変化させる。
オステオカルシンは「若さを保って」というメッセージとして働いている。
②オステオポンチンは「免疫力をアップせよ」というメッセージ物質。
免疫細胞の数を増やす重要な効果がある一方で、「老化を加速する」。
③スクレロスチンは、骨細胞が作り出すメッセージ物質
骨芽細胞に働きかけ、骨の形成にブレーキをかける。スクレロスチンが過剰に出てしまうと、骨密度が急激に低下して骨粗鬆症になる。
④メッセージ物質を利用する骨髄移植の新方法
白血病は、骨髄の中で異常が起こり、血球をうまく作れなくなる病気。
治療のための骨髄移植では、ドナーから正常な骨髄の一部をもらう。骨に何度も針を刺して吸い出す必要があるため、精神的肉体的な負担は小さいとは言えない。
最近では、「末梢血幹細胞移植」。ドナーは「G-CSF」という白血球を増やす働きを持つメッセージ物質の注射を数日間にわたって受ける。すると、数日後、平常時は骨髄の中にいる「造血幹細胞」が大量に血液中に泳ぎ出てくる。これを成分献血の要領で取り出せばドナー側の提供は完了する。G-CSFの正式名称は、「顆粒球コロニー形成刺激因子」、顆粒球を増やすメッセージ物質。
⑤ニッチ(居心地がよい環境)→造血細胞が、造血細胞のままでいられる環境
造血幹細胞は分裂を繰り返し増殖し、赤血球や白血球に分化していくが、分化せず造血細胞のままで残ってくれる細胞がいないと大変なことになる。骨の中の細胞たちが作るニッチに、造血細胞の分化を止めてくれる働きがある。ニッチは、「君は君のままでいて」というメッセージを出し続けていて、これを受け取った一部の造血幹細胞たちは分化せず、いつまでも造血幹細胞のままでいてくれる。
5.腸
①腸内細菌
腸は「腸内細菌」を養い、人体のネットワークに参加させている、特別な臓器。腸内細菌は、様々なメッセージ物質を出している。こうした物質は、腸から吸収されて血液中に入っていき、人体のあちこちで受け取られている。
②アレルギーは、「免疫の暴走」
免疫細胞は、一旦火がつくと一気に燃え上がり暴走しやすい。それを「制御性T細胞」がヘルパーT細胞に働きかけて沈静化させる。
腸は、全身の免疫細胞(白血球)の7割が集まる、「免疫の臓器」でもある。病原菌やウイルスに備えるために大量の免疫細胞が集まっている。
人間には消化が難しい「食物繊維」は、古くから腸内細菌のエサとなっていた。野菜が多い(=食物繊維が多い)食生活をすると、腸内細菌の多様性が上がり、元気な腸内フローラになる。
6.脳
①血液脳関門
血液中を流れているメッセージ物質は、脳の神経組織の中に自由に入ることはできない。つまり、血液と脳の間には、メッセージ物質の通過を阻む関門がある。脳内に張り巡らされた血管の壁が、全体として関門の役目をしている。脳の血管には、他の臓器と大きく違う特徴がある。
他の臓器では、穴だらけの血管。血管の壁を形作る細胞同士の結合が緩く、周りの組織に直接、血液中の物質がしみ出していくような構造になっている。栄養やメッセージ物質を効率よく届けるためには、その方が都合がよい。
脳の血管は、他の臓器に比べて非常に緻密で、血管の壁を作っている細胞同士がピッタリとくっついた構造になっている。そのため、血液中を流れる物質は、血管から外に漏れ出ない。いわば穴のないホースが、血液を周囲の神経細胞から隔離している。もちろん、周囲の神経細胞は血液からの栄養を必要としているから、全ての物質をブロックしていない。血液脳関門は、単なる物理的な障壁ではない。血管の細胞たちは、血液中から必要なものを選び出して、神経細胞の入る領域へと積極的に入れる仕組みを持っている。インスリンなどの分子量が大きな物質も難なく通過することができる。
ほとんどのメッセージ物質は血液関門によってブロックされ、脳の神経細胞には届かない。
②「思考する」とは
脳の神経ネットワークの中での情報伝達は、電気信号だけで行われるのではない。
脳の中で電気信号が使われるのは、あくまでも一つの神経細胞の中で信号を運ぶ時だけで、隣の細胞に信号を受け渡す際には、ほぼ必ず「物質」を使っている。
シナプスは単純な電気信号のリレーを行う場所ではなく、シナプスの隙間では、いくつもの神経伝達物質が飛び交い、神経細胞のネットワークは、様々なメッセージ物質を使って、複雑なコミュニケーションをしている。まさにそれは細胞同士の「会話」と呼ぶにふさわしいもの。脳という驚異的なネットワークが生み出す現象の複雑さは、まさに別次元のすさまじさがある。それを「思考」と呼び、そこに「意識」を見出す。
電気回路に支えられるコンピューターは、一つのインプットに対して常に同じアウトプットを返してくれる。しかし、脳はそうではない。細胞の末端、シナプスに蓄えられている神経伝達物質の量も、受け取る側の細胞の地謡も毎回違う。周囲に漂っているメッセージ物質の量も、一定ではなく変化している。細胞同士の会話には「全く同じこと」は二度と起きない。こうした脳の特性は、計算問題であれば「間違える」という困ったものだが、複雑な問題を考える時には、「別の回答を生み出せる、創造性、自由意志」と、肯定的に捉える。ちょっとした脳内の違いによって全く別の結論に行き着く可能性を持っている。脳は、集中している時よりも、ぼーっとしている時の方が、脳内の広い領域を繋ぐネットワークが活性化している。無意識に行われる細胞の会話にこそ、「ひらめき」の素が潜んでいる。
③脳の神経細胞は大人になった後でも日々新たに生まれる
脳では、回路を構成する細胞が、日々新たに生まれ、それらの細胞は記憶と深く関係している。人工的な記憶媒体は、できるだけ変化しないように設計されているが、脳は、記憶に関わる部分にわざわざ新たな部品を追加して、自ら変化していってしまう。私たちの記憶は常に変化する。そして必ず「忘れる」という現象も起きる。生きた細胞のコミュニケーションだから当たり前のこと。
9.生命誕生
①肝臓オルガノイド
iPS細胞やES細胞から作られた、いわば「ミニ臓器」。それぞれの臓器の「構造」や「機能」の一部を再現しているもの。
10.エクソソーム
①別次元の情報伝達手段
エクソソームとは、たくさんのメッセージ物質が詰まったカプセルのようなもの。エクソソームは、全身のほとんどの細胞が出している。そのため、血液中に100兆個以上流れている。エクソソームの外側の膜は、細胞膜と同じ成分でできていて、他の細胞へ入り込むために必要となる、タンパク質の鍵も持っている。その中には、マスクロRNAと呼ばれるメッセージ物質が入っている。エクソソームとマイクロRNAがタッグを組むことで、多様な情報伝達が行える。
②がんと闘うために
エクソソームの中に含まれているマイクロRNAを分析することで、がんを特定する。
がん細胞が出すエクソソームは、外側を包む膜に、正常な細胞とは違う特徴を持っている。この特徴がさらに目立つように「目印となる物質」をくっつけると、免疫細胞が、がん細胞から出たエクソソームを食べてくれる。転移の帽子などに効果。
