チョムスキーの「統辞構造論」の入門書。
逆に言えば、統辞構造論に興味がなければつまらないかもしれない。
統辞構造論は読みにくかったので、かなり助かる。
チョムスキーとシャノンがMITで同僚だったのは興味深い。
そして、ミンミンゼミの鳴き声は有限状態オートマトンとシャノンの情報理論を用いている。
チョムスキーが言語(個別言語)が生得的というのは、母語自体でなく、母語を獲得する能力である。
個別言語とは、日本語や英語などの具体的な言語
普遍文法とは、すべての個別言語に共通の文法
生成文法とは、個別言語について構造の生成を明らかにする文法
普遍文法とは、人間にとってどんな生成文法が可能なのかを定めるもの。
文法は意味から独立する。
→文法的に正しく意味をなさない文を作ることができる。
人間の言語はコミュニケーションのために作られたのではなく、進化の過程で、脳に普遍文法という働きが備わった結果、思考やコミュニケーションに使われるようになった。
そもそも生物の進化に目的は存在しない。
世界で初めて言葉を話した人類は、周りに話せる人が誰もいなかったはず。
まわりに言語環境がなければ「オオカミに育てられた子供」のように言葉は話せないはず。
一卵性双生児で同じ遺伝子の突然変異が共有されたなら、言語能力を獲得した子供たちの間で言語が生まれる可能性がある。
子供は優れたクレオール化(不完全な言語であるピジン言語を十全な母語に変えて獲得すること)の能力があるため、
他方がより自然な言語に直すことができる。
双生児の間にはその二人だけで通じるツイントークという独自言語の一種が知られている。
また、たった一人でも思考力が高ければ、自分との対話を通して新たな言語を生み出せるかもしれない。
人間の思考力は、言語能力という基礎の上に想像力が加わったもの。
これが普遍的な構造で、その特徴を説明するのが普遍文法。
「みにくいアヒルの子」が
Google翻訳で"The Ugly Duckling."にならないと書いているが、
コンテキストが与えられなければ、
「みにくい」を「見にくい」と解釈するのは自然だと思う。
「醜いアヒルの子」としてあげれば、"The Ugly Duckling."になる。
キャピタライズはされないけど。
「アヒルの子」をducklingとするだけでもすごいと思う。
統辞構造論は三つの論文(現代ヘブライ語の形態音素論、言語理論の論理構造、言語記述のための三つのモデル)を凝縮した。
統辞とは、複数の形態素(語形の最小単位)や、語・句・節を結びつけて文を構成する時の文法規則
文法システムそのものを指す場合は統辞法
統辞法に関する研究(分野)を指す場合は統辞論
統語という訳語もあるが、単語だけを対象にするわけではないから、統辞の方がより適切
第1章 序文
統辞論とは「文が構築される諸原理とプロセスの研究」
つまり、個別言語の文が、どのような原理に従って作られるのか、そしてどのような過程で作られていくのかという探求
学校で習う文法は、装置(脳)の結果として現れたものをもとに人為的な理由を後付けしたもの。
文そのものを生み出す装置を生成文法という。
生成文法は、文の「意味」とは独立して存在する。
第2章 文法の独立性
文法判断は意味、学習・経験、統計・確率や頻度の三つから完全に独立している。
第3章 初歩的な言語理論
人間の言語は有限状態言語ではないから有限状態文法で英語の文を生成することは不可能。
有限状態オートマトンを数学的に理論化したのが有限状態マルコフ過程(マルコフ過程)
チョムスキーの初歩的な言語理論は、
有限状態オートマトンが従う規則のことを有限状態文法または正規文法。
その規則に基づく言語のことを有限状態言語(正規言語)
動物のコミュニケーションは有限状態言語の範囲内にとどまる。
つまり、ミンミンゼミの鳴き声は有限状態オートマトン
第4章 句構造
構成素分析の前提となる文法が句構造
文脈を加えることでコピー言語までの弱生成(個別言語の文を生成する)が可能になったが、単純で啓発的な理論ではない。
第5章 句構造による記述の限界
句構造文法は強生成(あらゆる文の統辞構造を生成できる)において限界がある。
強生成を可能にする新しい文法
→言語構造に関する第三のモデル、つまり変換モデル
→この第三のモデルは、変換生成文法、変換文法と呼ばれ、文法的変換をその一部として含むような生成文法である
→句構造と文法的変換を組み合わせたモデル
変換分析
・必ず行わないといけない義務的変換
・変換するかどうか選択できる随意的変換
文法は句構造→変換構造→形態音素論という三段階によって構成される。
句構造を持つ形態素の連鎖は、変換構造によって、語の連鎖に書き換えられる。
さらに語の連鎖は、形態素論によって音素の連鎖に書き換えられる。
つまり、変換構造の規則が、句構造と形態音素論の規則を有機的に結び付ける。
第6章 言語理論の目標について
法則としての言語理論が満たすべき指針
・妥当性の外的条件
・一般性の条件
・単純性
第7章 英語におけるいくつかの変換
第8章 言語理論の説明力
言語的レベル
・構造的同音意義性
第9章 統辞論と意味論
第10章 要約
文法装置は左脳の下前頭回(左下前頭回、ブローカ野を含む)にある。これを文法中枢と呼ぶ。
文の意味を理解する(文字を読むときだけでなく、音声や手話の入力も含める)の領域は
文法中枢のすぐ腹側(下側)にあり、文法中枢と読解中枢を前方言語野をなしている。
語彙や音韻の中枢は、それぞれ左脳の角回・縁上回と上側頭回(ウェルニッケ野を含む)にあり、後方言語野を成している。
後方言語野が音素や形態素などの要素的な情報を扱う。
それぞれの中枢が独立して、語彙・音韻・文法・読解を担当しながら、
この四つの領域間でお互いに情報がやり取りされている。
つまり、自然な発話に現れる同じフレーズを繰り返し聞くのが良い。
繰り返される表現が脳への定着を促すからである。
文法判断に中心的にかかわる左下前頭回に加えて、文構造の自動計算などで補助的に働く
左運動前野外側部が文法中枢である。