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神の神経学―脳に宗教の起源を求めて

 

 

「神」は人間の脳が作り出したもの。

幻覚を見たり、神の声が聞こえたりした時には、それが一種の啓示のように思えるけれども、それは単に脳の一部が変性していたり、機能していないというだけ。
てんかん症状を持つ人が「神がかり」的な言動をおこなうのは、脳の中でてんかんをひき起こす部位と、神を感じる部位が一致しているから。

 

前頭葉の先端部である前頭前野皮質は、人間の倫理的、道徳的な人格を保持していくために不可欠な脳の部位。この部位が障害を受けると、たとえ他の脳の部位がどれだけ正常に機能していても、真の信仰を持って宗教活動を続けることは不可能になる。

 

頭頂葉の自己空間を認識する連合野は、「悟り」「神との一体化」「無我の境地」などの神秘的体験に関係している。しかし、この部分の関与はそのような神秘的体験時に一時的に見られるもので、宗教活動にとって頭頂葉の働きが継続的に必要とされている証拠はない。

 

側頭葉てんかんが引き起こす、幻覚や妄想のあるものは、宗教的体験にともなう幻覚や妄想と酷似する。側頭葉てんかんの患者の中に、強い宗教への傾倒を示す者がおり、一部の信者の宗教体験は、側頭葉てんかんの症状と考えられる。

 

幻覚剤の使用と臨死体験は、共に視覚を中心とした強い幻覚を引き起こし、その体験は宗教体験や側頭葉てんかんの幻覚症状と酷似している。これらの体験がきっかで宗教に入ったり、宗教を始めたりする場合がある。

 

宗教は大部分の場合、精神病の症状ではないが、診断を受けていない軽い病気を持つ精神病者が、その精神病に基づく宗教体験を経験している可能性はある。

 

宗教を起こさせる脳の特定の部位、すなわち脳内の「神の座」あるいは「神を知る中枢」の実体は、脳内の一点ではなく、幾つかの部位を結ぶ神経回路網である。宗教と似た複雑な人間の認知行動パターンである恋愛行動が、同じ様に複雑な神経回路網の働きで理解されるのとよく似ている。

 

「神を知る神経回路」には前頭前野皮質が必須の要素で前頭前野皮質は脳全体の宗教活動の指揮者のような存在である。

 

宗教成立の充分条件は、頭頂葉や側頭葉から発せられる特有の体験である。それは、瞑想や祈祷によって得られたり、宗教儀式に参加することによって得られることもある。また、側頭葉てんかんのような病的に起こる幻覚や、ストレスや一時的な身体状態の変化から来る幻覚によることもある。更に、薬物による幻覚が役割を果たす場合もあれば、臨死体験がきっかけとなることもあるかもしれない。

結局、前頭前野皮質との連絡網を介してはじめて、神や仏への信仰という形の最終的な宗教へと結実する。そしてそこには、宗教的な環境、たとえば寺院や教会などの特有な雰囲気と、すでに信者になっている人々の誘導が、重要な外的要因となっている。