akon2.00βのよっぱらいの戯言

色しょく是食、食しょく是色

人類進化の謎を解き明かす

 

 

著者のダンバー数(気のおけない仲間の数は150人)のロビン・ダンバー。

人類進化の鍵は、「社会脳」と「時間収支」が握っている。

 

捕食圧のために集団の規模を大きくする必要がある。

集団の規模を大きくするとストレスが発生するので、毛づくろいによって、互いの絆を深める必要がある。

 

毛づくろいは脳内にエンドルフィンが分泌される。エンドルフィンは穏やかな脳内麻薬作用による高揚、軽度の鎮痛効果、快感、鎮静効果がある。

笑いもエンドルフィンの分泌を促す。

料理を食べればエンドルフィンが出て、さらに酒はエンドルフィンの大量分泌を促す。

音楽(歌と踊り)も同様である。

 

夜になって焚き火を囲んで昔ながらの毛づくろいに励んだり、噂話に花を咲かせたり、笑ったり、より親密な社交活動に浸っていた。

 

薄闇の中では、視覚的に伝えられる情報はかなり限られるので、言葉が進化していった。

笑いは偶発的だが、言語は冗談を飛ばして笑いを生むことができる。

言語を用いた物語では目に見えない世界について話すことができるので、宗教が成立した。

そして、集団の規模を大きくしていった。

 

 

一方、言語は小規模で排他的な共同体を作るために進化した。

 

メンタライジング(心の理論:ToM/ Theory of Mind)

自分のこころの中で、自分と他者のこころについて考えて感じる。

大きな脳を獲得するにつれて、四次、五次、六次と志向意識水準の次数が上がっていく。

 

社会脳仮説
社会的行動の複雑さ(相手の心を読み取るメンタライジング能力など)や社会の規模と、脳(新皮質)の容量には相関があり、新皮質の容量から、その集団の規模や認知能力を推測できる。
ダンバー数もこうして得られた仮説

ダンバー数新石器時代の村落から現代のソーシャル・ネットワークに至るまで当てはまる。

 

時間収支

「時間収支」モデルは、生きていくのに欠かせない「摂食・移動・休息」と、集団を維持するための「社交」を、限られた時間のなかで、 どうやりくり(配分)するかに注目する。この時間収支モデルを社会脳仮説と掛け合わせることによって、人類の認知や社会、コミュニケーションのありようを捉え、進化の段階を初めて統合的に展望できる。


ヒトを含めた霊長類では、集団の絆を維持するための「社会的毛づくろい(社交)」 の時間は、その集団の規模(ひいては脳の大きさ)に比例する。そして集団の規模が、社交に当てるべき時間を超えて大きくなってしまうと、その集団は崩壊し、別の小さな集団へと分かれていく。つまり、より集団が大きくなるには、社交以外の時間をやりくりし、社交に当てる時間を増やすか、あるいは社交をいっそう効率よくできる方法を編み出すかしかない。

脳や体が大きくなるには、それだけ余分のエネルギーが必要であり、摂食・食べ物探しの時間を増やさねばならない。しかも、集団の規模も大きくなっているので、社交の時間を増やすことも求められる。当然、従来のライフスタイルのままでは、時間のやりくりは行き詰まる。

 

この時間収支の解決策のひとつとして、「笑い」の感染・エンドルフィン作用がある。

 

人類は、アフリカを起源として、
原始人(アウストラロピテクス)
原人(ホモ・エルガステル/ホモ・エレクトス)
旧人(ホモ・ハイデルベルゲンシス/ネアンデルタール人)
新人(ホモ・サピエンス)と進化した。


ヒト属、チンパンジー属、ゴリラ属を含む大型類人猿は「ホミニド」、現生人類につながる系統種(ヒト属/Homo)は「ホミニン」と区別される。


約500万年前、アフリカ東部と南部にアウストラロピテクスが広く分布した。

180万年~150万年前、アフリカにホモ・エルガステルが誕生し、ユーラシア大陸に渡ってホモ・エレクトスとなった。

約50万年前、アフリカでホモ・ハイデルベルゲンシスが誕生し、ユーラシア大陸に進出、約25万年前にヨーロッパ大陸ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)となった。

約20万年前、アフリカ南部でホモ・ハイデルベルゲンシスから、ほっそりした(華奢な)体つきのホミニンが分岐した。これが解剖学的現生人類(AMH:anatomically modern human)すなわちホモ・サピエンス

 

集団生活のストレスを解消するために

共同体の規模が大きくなると過密によるストレスがたまり、メスは不妊になり、共同体サイズの増加に自然と歯止めがかかる。

捕食圧のために共同体サイズを大きくする必要がある場合はストレスを解消しなければならない。集団内に派閥をつくって他者の嫌がらせを封じることでストレスを解消する。

派閥を形成するためには、社会的毛づくろいによって絆を作る。

社会的毛づくろいをすることによって、無髄C線維が活性化され、脳内にエンドルフィンが分泌される。

親密な社会関係を結ぶと他の神経伝達物質や脳内ホルモン(オキシトシン=愛情ホルモン)も分泌される。

エンドルフィンは穏やかな脳内麻薬作用による高揚、軽度の鎮痛効果、快感、鎮静効果がある。

 

集団の絆を維持するための「毛づくろい(社交)」にどれだけの時間を割り当てられるかにでコミュニティの規模が決まる。

 

類人猿は熟していない果実を消化できないため、熟した果実を求めて移動することが必要。

サルや類人猿において一日の20%をも移動時間に割り当てる生物種はほとんどいない。したがって、移動時間を減らすには、集団の規模を小さくするしかない。

 

第一移行期:アウストラロピテクスの誕生

アウストラロピテクスを特徴づける進化上の発達は二足歩行だけ。

サルや類人猿は木の枝を掴むため親指が外側を向いているが、アウストラロピテクスの足跡は他の指と同じ方向を向いている。

 

二足歩行の利点→時間収支の改善

①酸素消費量が少ない

②冷却効果→体表面から被毛がなくなり、発汗作用が強化された。

 

食性を変えて時間収支の改善

後期アウストラロピテクスの歯に含まれる炭素同位体を分析すると、旧世界のサルや類人猿よりもC4植物(一般の低木や樹木はC3植物だが、熱帯性の野草、スゲ属、多肉植物アカザ科の一部にはC4植物がみられる。果実やナッツ類を餌にするサルや類人猿はC3植生である)を多く食べていた。

→類人猿は生肉をたやすく消化できず、少なくてもヒトは多量の肉を食べるとタンパク質中毒を起こす。火を通して加熱すれば約50%ほど消化しやすくなるが、アウストラロピテクスの段階から火を使っていたとは考えられない。

 

人差し指と薬指の比率(2D:4D比率)で、D(digit:指)は、胎児が子宮内でさらされたテストステロン濃度に影響される。多婚種ではオスの2D:4D比率が小さく(人差し指が短い)、単婚種ではこの比率が1に近い。

 

第二移行期:初期ホモ型

ホモ・エルガステル

約180万年前にアフリカ東部に出現した。二足歩行に適応した長い後肢を得て、脳の大きさが大幅に増加し、アシューリアン握斧を制作した。

アフリカで出現した直後には、黒海の北側に位置するグルジア(ジョージア)に達し、ユーラシアに侵入し、ユーラシア大陸にも移動しはじめてのアフリカ脱出を果たした。

とはいえ、それ以降は、100万年以上にわたって目立った変化もなく、脳容量もごくわずかしか増えず、「握斧」も100万年にわたってほぼ変化がない。

 

肉食へのシフトが脳を肥大化させた

アウストラロピテクスの脳は約480㎤でチンパンジーよりわずかに大きいだけだが、初期のホモ・エルガステルが760㎤、後期ホモ・エレクトスが930㎤と、アウストラロピテクスからホモ・エルガステルへは280c㎤、58.2%も一気に増えた。脳はその維持に全エネルギーの20%も要する。つまり、総エネルギー摂取量を4.5%も増やさなければならない。アウストラロピテクスは日中時間の約44%の摂食時間が限界ラインとなっているが、脳が肥大した分、ホモ・エルガステルは49%、ホモ・エレクトスは51%を摂食時間に使っていたことになる。

 

一方、ホモ・エルガステルは脳が大きくなった分だけ社交に費やす時間も増やさなければならない。二足歩行のメリットの代償にアウストラロピテクス疲労し切っているはずで、休息時間は切り詰められないので、ひとつは摂食時間が切り詰められたという可能性。

 

レスリー・アイエロの不経済組織仮説

食べ物の質を高め、腸の栄養吸収率を改善してやれば、トータルコストを増やすことなく、「腸」から別組織、脳へとエネルギーをまわせる。例えば、肉は植物よりも栄養が豊富で、脳の発達に欠かせないビタミンB群に属するビタミンB3(ナイアシン)等の微量栄養素にも富む。消化が良い肉食にシフトすれば腸の縮小は可能となる。

しかし、霊長類は生肉を効率よく消化できるようにできてはいない。肉に火を通せば消化率は約50%も増すが、現在の狩猟採集民も、肉だけを食べているわけではなく、肉や塊茎類は食料源の約45%を占めているにすぎない。現生人類のパターンを基準にすると、食料源の45%で消化効率が50%増加することから、食料全般の質は22.5%高まるが、肉や塊茎類をホモ・エルガステルでは全体の50~67.5%に、ホモ・エレクトスで130~105%食べなければエネルギー的に帳尻があわない。

 

ホモ・エルガステルとホモ・エレクトスは大きなった体や脳を維持するために、1日の57%と58.5%を食べることに費やさねばならないので、不可能だし、食料全体を肉に依存することは現生人類でもしていない。初期ホモ属が時間収支の問題解消のために肉食に依存したわけではない。

 

北京原人の火の使用は誤り、火の使用は50万年前から

大きな炉を維持するには1日に30kg以上の薪が必要で、その薪を集めるため、既に限界に近い時間収支に大きな負担を強いる。火を絶やさないための交代での管理には言語や認知能力も欠かせず、こうした認知能力を可能にするほど大きな脳は、約50万年前の旧人の出現をまたなければならない。料理を思わせる証拠は確かに存在するが、火を使った証拠が旧世界の三大陸すべてで広範囲から豊富に見つかるようになるのは、50万年前からで、炉の証拠が見つかるのも40万年前以降である。つまり、人類が火を完全に使いこなすようになったのは約40万年前でそれ以前には料理が食事の習慣にはなっていないことを示すので、料理はホモ・エルガステルの時間収支の主な解決策ではない。

 

旧歯が小さく犬歯が失われたのは肉食へのシフトではない

霊長類の大きな犬歯は、肉食動物とは異なり摂食には使われてはいない。純粋にオス同士の争いに使われる武器である。つまり、大きな犬歯が失われたことは、雄の間で直接的な競争がなくなったことを暗示する。

 

初期のホモ・エルガステルの臼歯の並びが小さくなったのは、声による意思疎通、例えば、笑いを可能にする発声空間を制御しやすくするために、顎を小さくする必要に迫られたため。

 

笑いがコミュニティを維持する鍵となった

サルや類人猿が社会的毛づくろいに費やす時間は一日の約20%で限界に達する。その限界からコミュニテイの規模の上限は約50頭に制限される。これに対して、集団規模の関数方程式から試算すれば、ホモ・エルガステルは約75人の集団で日中の18.5%の時間を社交に費やし、ホモ・エレクトスは約95人の集団で23.5%の時間を費やしていたことになる。互いの絆を深めるための時間はコミュニテイの規模と正比例するため、ホモ・エルガステルの大きな脳に見合った大規模なコミュニテイを維持するには、毛づくろいの時間をアウストラロピテクスに比べてほぼ2倍にしなければならない。したがって、毛づくろいの時間を増やすか、または限られた時間内でより多くの相手と絆を結ぶ効率のよい方法が見つけ出されたはず。

 

毛づくろいが群れの維持に役立つのは、これが与える肉体的な刺激によって脳内でエンドルフィンが分泌され、互いの絆を深めるからである。したがって、必要なのはエンドルフィンの分泌である。

 

類人猿の笑いは、たいてい遊びの場面で生じ、一連の呼気・吸気が反復される。息を吐くごとにかならず息を吸うために肺が空にはならない。これに対して、ヒトは笑うときに急速に息を連続して吐くため、息継ぎしたくなる。胸壁筋にストレスがかかり、エンドルフィンが産生される。すなわち、笑いは手が届かない相手に対しても毛づくろいと同じくエンドルフィンの分泌を促すことができる。

 

ヒトの行動で、笑いほど他に伝染しやすいものは他にない。たとえ冗談を理解できなくとも、他の誰もが笑っているときには笑わないでいることは難しい。また、誰かを笑わせるのに言葉がいらない。笑いが本能的であることは、その起源がきわめて古く、言語よりもはるか以前に進化した。

 

会話集団には4人という上限があり、4人を超す人が会話している場合には、その集団はたちまち2つの別々の集団にわかれる。そして、笑いの集団規模はさらに小さく、上限は3人。

 

とはいえ、毛づくろいが一対一の行為で、同時に数頭に対して行うのは物理的に不可能だが、笑いは毛づくろいの3倍の効率がある。笑いを絆の強化のために活用すれば、これは大幅な時間短縮につながる。ホモ・エルガステルでは日中の6.2%、ホモ・エレクトスでは7.8%に減る。気候変動、二足歩行、不経済組織説で得られる節約とあわせれば、食物のわずか5%を料理するだけで、絶えず炉の火を常時維持したり、獲物を殺したりせずに、生きられたことになる。

 

第三移行期:旧人

ホモ・ハイデルベルゲンシスの登場

ホモ・エルガステルとホモ・エレクトスは、180~50万年前までの約100万年以上も存続し、その間、ほとんど変化しなかった。

約60万年前に突如としてアフリカに新種ホモ・ハイデルベルゲンシスが出現し、驚く程のスピードで西アジアやヨーロッパへと拡散し20万年間も繁栄した。そして、約30万年前には、ヨーロッパのホモ・ハイデルベルゲンシスはネアンデルタールへと進化する。一方、東方ではデニソワ人になったらしい。

 

初期のホモ・エルガステルが760㎤、後期ホモ・エレクトスが930㎤であったのが、ホモ・ハイデルベルゲンシスでは1,170㎤、ネアンデルタールが1,320㎤。

 

この変化はすべて約30万年以内に起きたので、この時期に大きな脳への強力な淘汰圧が存在した。

 

火のコントロールと料理によって脳の肥大化を達成

ハイデルベルク人の脳が肥大化したのは料理。肉と塊茎のすべてに火を通して食べれば栄養吸収率が50%は増す。この時期は火をコントロールするようになった約40万年前の直後である。狩猟採集民からの類推で最大で45%を肉や塊茎類に頼っていたと考えても十分に余裕がある。肉や根茎類をすべて料理する必要はなく、エレクトスがときおり料理していたことから、初期ハイデルベルク人がより頻繁に料理し、さらに後期ハイデルベルク人では料理に慣れて、それが習慣化した。

 

料理で食べればエンドルフィンが出て絆が深まる

料理にはもう一つ予期せぬ利点は互いの絆を深めるため。ものを食べるとエンドルフィン系が活性化する。

食事を共にする社会的行為を重んじる理由は、共に食事をすることが相手と知り合える自然な方法だからだ。そして、食物を料理するば自然に大勢で食べるようになり、このこともホモ・ハイデルベルゲンシスの社会的結束を固めるのに役立った。すなわち、料理の発明こそが、重要なイノベーションだった。食事によって脳容量の増加が促され、さらに、料理をすれば自然に大勢で食べるようになるため、大規模化した集団の絆づくりのための社会的行動にかかわる時間収支がいくらか節約された。

 

音楽が毛づくろいの代わりとして人々をつないだ

脳が大きければ、コミュニティの規模も大きい。ダンバー教授の方程式からは、ホモ・ハイデルベルゲンシスのコミュニティの平均規模は約125人で、これはホモ・エルガステルより68%も大きい。これは、摂食時間に加えて、増えたコミュニティを結束させるための社交時間もさらに必要となり、毛づくろいでは30.5%も時間が増すことを意味する。料理だけでホモ・ハイデルベルゲンシスの大幅なコミュニテイ規模の増加を完全に説明できない。さらに、それがさらなる「笑い」だったとは思えない。笑いの絆づくりだけでは埋められないギャップを埋めたが「音楽」だ。

 

歌声で大規模なコミュニティを形成するゲラダヒヒ

「歌」と「笑い」はまったく同じ解剖学的・生理学的プロセスを持つ。いずれも、呼吸の制御が必要で、胸壁筋や横隔膜が動いて、エンドルフィンを効果的に分泌する。メロディを口ずさむハミングも、笑いと言語をつなぐ理想的な架け橋といえる。

 

歌うネアンデルタール仮説

音楽活動をするとエンドルフィンが分泌される一方で、より静かな活動やただ音楽に耳を傾けているだけではエンドルフィンは分泌されなかった。すなわち、社会的つながりを強固にする薬理学的メカニズムを活性化するのに音楽は使える。

 

音楽は、社会的つながりを維持するメカニズムとして、笑いより重要なメリット

・音楽はたくさんの人を巻き込む。音楽効果の上限はまだわかっていないが、笑いの上限の三人より大きいのは間違いない。「毛づくろい」相手の数を劇的に増やせる。音楽は大集団内の絆を固める。

・歌う、楽器を演奏する、踊るといった音楽活動には明確な共時性がある。この身体運動によって分泌されるエンドルフィンは約2倍に増す。すなわち、タイミングを合わせて行動することでエンドルフィン分泌がかなり活発になる。

 

ネアンデルタール人の脳は視覚の特化で大きくなった

言語・知能などとかかわるメンタライジング能力は、眼窩前頭皮質(前頭葉にある)の容量と相関があり、 ネアンデルタール人の言語が、現生人類ほど複雑でなかった。

ネアンデルタール人と現生人類の脳の違いは、その全体の大きさよりも、 前頭葉の発達の違いである。ネアンデルタール人は、日差しの弱い、高緯度地帯(ヨーロッパ)で暮らしていたため、視覚系(後頭葉)を発達させなければならず、そのため言語機能にかかわる前頭葉は大きくならなかった。現生人類でさえ、高緯度地帯では脳の視覚野が大きい。しかし、現生人類は、日差しの強いアフリカの低緯度地帯ですでに前頭葉を発達させてから、高緯度地帯に進出した。さらに、同じ言語を話す集団の規模が、低緯度(熱帯)では小さく、高緯度では大きい。


ネアンデルタール人が絶滅し、現生人類が生き残った要因として、言語や社会・コミュニケーションの複雑さ、文化的な創造力、交易ネットワークによる協力体制といった、 認知能力を根幹とする共同体の質・規模のちがいが考えられる。

 

第四移行期:現生人類

約20万年前、より華奢なホミニンがアフリカに出現した。この新種は骨格が著しく華奢で、脳の大きさが際立って増大していた。

 

焚き火を囲む会話と物語
解剖学的現生人類は、ネアンデルタール人と脳の大きさが同程度だったが、ネアンデルタール人と違い、社会脳仮説によれば、彼らの共同体規模は旧人より3分の1ほど大きかったので解剖学的現生人類は余分な社交時間要素があった。つまり、解剖学的現代人は社交時間を12ポイント余計に捻出しなければならず、彼らの時間収支は1日あたり150%という不可能な数字になる。

 

摂食時間を減らして余分な12ポイントを稼ぐため、現生人類は料理で18ポイント(ネアンデルタール人が既に料理していた42.5%に加えて食物の20%)を追加で料理する必要があり、食物の約62.5(42.5 + 20)%を肉と塊茎にしなければならない。現生人類が食物の料理によって得ている節約時間が45%なので、この数字は信じがたいほど高い。現存する狩猟採集民の食事に占める肉類の割合は緯度に関わりなくほぼ一定で、たいてい全体の35~50%にすぎない。

 

つまり、現生人類は動物を狩ってその肉を食べる純粋な肉食動物ではないので、さらに料理(つまり肉類)の量を増やし、必要になった余分な社交時間を工面することはできなかった。

 

音楽や踊りはたしかに局所的な共同体(バンド・野営集団)の結束を固めるには有効だし、笑いのつながりを深める効果を補強するよう進化したかもしれないが、言語(少なくとも、集いの取り決めができるほど複雑な言語)がないのに、大勢で踊ることが効果ではない。

言語によって大勢で定期的に踊ることが可能になれば、現生人類の150人というきわめて大きな共同体のための付加的な時間需要は、1日の約1%に減ったかもしれない。

言語は一度に何人かの人に対処できるので、会話集団サイズの限界は4だが、言語は明らかに大人数に講義する目的などに使える。

 

言語と火を組み合わせたらどうなるか。

火の重要性は、料理と暖かさ以外に、1日のうちの活動時間を伸ばす人工的な灯りになってくれる。

 

火を使うことで座って行う活動(道具を作ったり、より重要な社交に興じたりする)のための余分な時間が得られれば、日中の時間を食物探しなど移動を要する時間に当てられる。


現生人類はおよそ8時間眠るので、これを最小限度の就寝時間と考えると、焚き火のまわりで他の活動に4時間あてられる。12時間の活動時間に4時間足すと、ホミニンは実質的に100%ではなく133%の時間収支を合わせればいいことになる。

 

・エルガステル/エレクトス系統は笑いを進化させた。
旧人は歌と踊りを進化させた。
こうした活動はいずれも夜に行われた。

人類にしても、昼間にダンスしても夜ほどの興趣は得られない。夜になにか心理的に特別なものがあり、物語にもあてはまる。ただし、踊りは毎日行うというものでもないので、踊りは社会ネットワークの外側の層のより疎遠な関係にふさわしい。

日々の行いとして、社会的毛づくろいのように、夜になって焚き火を囲んで昔ながらの毛づくろいに励んだり、噂話に花を咲かせたり、笑ったり、より親密な社交活動に浸っていた。薄闇の中で焚き火を囲むときには、視覚的に伝えられる情報はかなり限られるので、そうした状況を最大限に利用するには音声に利点がある。視覚情報があまりないような文脈でも、言葉が少なからぬ情報を交換することを可能にした。

 

言語には絆作りに潜在的な利点となる2つの側面がある
・言語は冗談を飛ばして笑いを生むのに使うことができる
・笑いは基本的に特定のできごとに反応して一斉に起きる
ただし、笑いはいつ起きるかは予測不能で、完全に視覚に依存するため、起きるのはほぼ日中に限られるが、言葉は冗談によって笑いの頻度と文脈を変えることができるので、結果的に笑いを支配するとともに、その頻度と効果を大幅に増やすことができる。


物語

・物語は社会の歴史を構築し、共通した歴史によって結ばれた共同体がどのようにして形成されるにいたったかを明確にできる
・物語では目に見えない世界(作り話や精霊の世界)について話すことができるので、作り話と宗教が成立する

 

言語の起源
現生人類の多くは右利き。

 

言語にかかわる遺伝子を同定できれば、進化遺伝学の高度な統計を用い、これらの特定の変異がはじめて起きた年代を推定できるかもしれない。

Foxp2遺伝子がネアンデルタール人のゲノムに発見され、この種が言語を持っていたという証拠と解釈されたが、Foxp2遺伝子は鳥類にも発見されているので、実際の機能は言語そのものより発声の制御にかかわるのかもしれない。

 

言語の起源を推定するのに用いることのできる3つのアプローチ
①音声器官の制御にかかわる神経解剖学的証拠

胸部の脊髄の大きさ、頭蓋骨底に開いた舌下神経管の大きさから、少なくとも発話能力はおよそ50万年前に旧人とともに進化した。

②ホミニンの進化史を通して推定した社交時間需要
発話と言語を明確に区別する必要があり、解剖学的データは、旧人と現生人類が複雑な発声を可能にする音声制御能力をもっていたことを示すにすぎない。

③メンタライジング能力の進化パターン
話し手と聞き手のどちらも相手の意図を理解しようと心がけなければならないので、メンタライジングは言語に不可欠。

メンタライジング能力は脳内のメンタライジング・ネットワーク容量、とりわけ眼窩前頭皮質との相関がある。

アウストラロピテクス類は、他の大型類人猿とともに二次の志向意識水準付近に一群となって分布している
・初期ホモ属はすべて三次、旧人ネアンデルタール人はほぼ四次
・五次の志向意識水準に達するのは、現生人類の化石種のみ
つまり、ネアンデルタール人が言語を持っていたにしても、現生人類ほど複雑ではなかった。

簡単な協力関係を結ぶのに三次以上の志向意識水準は必要ないが、複雑な物語をして聞かせる行為は、五次の志向意識水準の言語が必要。

 

繁殖スタイルの変化

哺乳類では脳の発達がほぼ完了し、独りでも生きていけるようになってから子が生まれる。神経組織は一定の速度でしか成長しないので、脳を増大させたい種は妊娠期間を必要なだけ延ばして脳の成長を図るしかない。これを可能にするため、霊長類など大きな脳をもつ種は出産する子の数が少ないことが多く、自分たちの系統の存続を確実にすべく寿命を延ばして十分な時間を確保する。

 

哺乳類の標準的なパターンでは、現生人類は本来21ヶ月にもおよぶ妊娠期間をもたねばならない。そこまでまってようやくヒトの赤ちゃんは他の霊長類が生まれる時と同じくらい脳が発達する。

胎児は生まれるときに骨盤の両側にある寛骨のあいだの空間を通らねばならず、この骨盤腔の大きさによってそこを通る頭の大きさが制限される。この問題は二足歩行の進化によってさらに深刻になった。骨盤は内臓や体幹を支えるボウルのような形になり、骨盤入口と産道が狭まった。

もちろん、脳が完全に発達した21ヶ月の胎児が通れるほど大きい臀部をもつように女性が進化したなら、問題は簡単に解決できるが、幅1メートルを超えるような尻は歩くのに不便だし、走るに至っては論外だ。ホモ・エルガステルが遊動生活によって得た利点が元の木阿弥になってしまう。

そこで、胎児が独立して生きられる最低限度まで妊娠期間を短縮し、子宮外に出てから脳の成長を完了するとした。

 

結核菌の役割

結核菌は病原体というより共生体としてふるまう。

結核菌が正常な脳の発達に欠かせないニコチンアミド(ビタミンB3)を産生する。

ビタミンB3はおもに肉からしか摂取できず、穀物はビタミンB3をほとんど含まない。

 

なにがネアンデルタール人と現生人類の運命を分けたのか
ネアンデルタール人はおよそ2万8000年前(化石が残っている最後の年代)に姿を消した。

彼らの「機能的な」脳は、少なからぬ部分が視覚処理に割かれていたので、現生人類ほど大きくはなかった。

より小さな前頭前野をもつネアンデルタール人は計画能力が低かった。このことはある状況に対する反応を抑制する能力は言うまでもなく、道具その他をデザインする能力や、自分たちの行動が未来にもたらす結果を予測する能力にも影響を与えた。

 

第8章: 血縁、言語、文化はいかにつくられたか
4万年ほど前に解剖学的現生人類が出現し、この時期特有の新種の道具や工芸品が作られるようになった。これらのメカニズムはすべて文化に関わるので、必然的に言語が重要な役割を果たした。

 

言語が進化した理由

社会脳仮説には、言語に関する3つの異なるバージョンがある
・ロビン・ダンバーのゴシップ説

→言語は社会関係に関する情報をやり取りするためにあるという説
・テレンス・ディーコンの社会契約説
→言語は形式的な取り決めと公的宣言のためにあるという説
・ジェフリー・ミラーの求愛行動説
→言語は異性の注意を引いて逃さないためにあるという説

 

情報交換はいったん言葉を使って関係を築いた後でなければ起きない
言語がもつ明白な利点は、社会的つながりを肉体的なもの(毛づくろい)から音声に転換することによって、複数の個体に同時に「毛づくろい」し、より大きな共同体を作ることを可能にする点にある


言語はこれをまったく異なる3つのやり方で成し遂げるのかもしれない
・まず、互いに自分が世界をどう見ているかを教えあう(共通の世界像をつくる)
・ 次に、物語(自分が何者で、どこから来たかにかかわる物語)を聞かせる
・最後に、冗談を言って人を笑わせる

 

笑いは一種の合唱だった。 なんらかのできごとに多くの人が同時に笑いに誘われるというもので、散発的で予測不能なので、笑いの合唱が起きる間隔はきわめて不規則。

 

冗談は必ずと言っていいほど他者の心の状態にかかわるので、それを理解するには志向意識水準の次元が高くなければならない。特に隠喩の場合は心の理論がなければ理解できない。冗談を飛ばすという行為は、他者をからかう以前にその人の心の状態にかかわる発言をする能力があるか否かに依存する。


物語をして聞かせるということは、共通の世界像を共有する人々のネットワークによって私達をつなげて共同体意識を作り上げる。つまり、150という互いをよく知る集団を定義する限界を越えて、もう1層を付加する可能性がある。

内容のいかんにかかわらず、焚き火の周りで物語して聞かせることによって人々の結束感が固まる。

感情を掻き立てるのは共同体意識を生み出すのにいたって効果的で、おそらくエンドルフィンが分泌される。


物語して聞かせるのが夜間だととくに効果的で、巧みな話し手は暗闇に対する恐怖によって聞く者の情動反応を高めることができる。暗闇は自分たちがいる場所以外の世界を遮断することによって仲間意識を醸成する。

 

言語はたえず方言に分かれつつあり、またたく間に互いに意思疎通が不可能な新たな言語になってしまう。
英語は現在では公式に6種の言語から成るが、起源が1000年以上さかのぼるものは一つもなく、たった数百年前というものすらある。

英語(イギリス、アメリカ)、ラランズ方言(ゲール人以外が住むスコットランド南部の伝統的な言語)、カリブ海英語、黒人英語(都市部に住むアフリカ系アメリカ人が話す言語)、シエラレオネ共和国クレオール語パプアニューギニアピジン

 

言語が協力をうながすためのものであるなら、なぜこれほどまでに非効率的で、近隣の集団同士ですら互いに理解することが難しいのだろうか。方言はなぜその話者の出身地を明確にする印をもつのか。
方言は出身地を同じくし、少なくとも小規模社会の中で、互いに血縁のある人々の小さな共同体を特定する。

つまり、言語は小規模で排他的な共同体を作るために進化した。

 

言語には、親族を名付けるという重要な側面がある。
 親族名称は、二人の人間の間の正確な関係を一言で表すことができる
人類学者は親族名称の体系にはおもに6類型あるとしている。

ハワイ型、エスキモー型、スーダン型、クロー型、オマハ型、イロコイ型

これらの体系で異なっている点
・ 「平行いとこ」と「交叉いとこ」を区別するか否か
 ・ 平行いとこは親と同性の兄弟姉妹の子、交叉いとこは親と反対の性別の兄弟姉妹の子
 ・ 出自を「単系」または「双系」のどちらでたどるか
 →英語は血縁関係を双系で見るが(cousin, aunt, uncleなどの語をどちらの場合にも用いる)、ゲール語など一部の言語は母系と父系の親族について異なる用語を用いる。

 

心情の上では姻族を真の親族のように扱い、それは生物学的にきわめて理にかなった理由がある
・姻族は次世代に関して親族と遺伝的な利益を共有する

・伝統的な小規模社会では、血統か婚姻かの別を問わず、共同体の誰もがみな親族である

 

物語はあらゆる宗教の重要な部分を成す
伝統的な小規模社会では、宗教は直接経験するものであり、しばしばシャーマンやそのトランス状態と関連付けられる。
シャーマンの仕事には音楽と踊りが特に重要な役割を果たし、信者がすっかり意識を失ってトランス状態に入るまで働きかける。
トランス状態で踊ることがエンドルフィンの大量分泌とかかわっている。
これが、人同士を結びつけ、関係を修復する方法。

エンドルフィンはさらに肉体や精神の健康に良い影響をもつので、トランス状態で踊ることは共同体全体の健康度と結束に利する。

 

死後の世界
考古学者が死後の世界を信じる根拠として認めるのはたいてい意図的な埋葬のみ。

この活発な様式を持つ宗教が、現生人類の系統においてのみ進化したこと、したがって彼らが大きな共同体の結束を固めることにつながってきた

 

宗教の複雑さは、理解できる志向意識水準の次元に依存する。

宗教的信条の複雑さにメンタライジング能力がおよぼす影響
志向意識水準    信念の言明例    宗教の形態
1次    神は[…存在する]と私は信じる    存在にかんする信条
2次    神は[法を犯すものがいれば介入する]のを厭わないと私は信じる    超自然的な事実
3次    神は[…介入する]のを厭わないとあなたが信じていると私は思う    私的な宗教
 4次    神は[…介入する]のを厭わないで欲しいと私達が考えているとあなたが信じていると私は思う    社会的な宗教
5次    神は[…介入する]のを厭わないで欲しいと私達が考えていることを神は知っているとあなたが信じていると私は思う    共同体の宗教

 

三次から四次の宗教をもち、五次の志向意識水準に達すると宗教の質には大きな変化がある。

 

なぜヒトの社会は階層が多いのか
150人の自然な共同体は社会的な意味で均質ではなく、異なる情動的、社会的関係を持つ一連の層から成る。こうした類の階層構造を持つ社会体制は霊長類の特徴であり、ヒトに特有なわけではない。


ヒトに特有であるのは層数
霊長類の共同体がより小さな集団に分かれるのは、大きな集団で生活するコストから自分を守るために同盟や提携関係を作るためだ。
実際、各層はそのすぐ上の層のための枠組みになる。
上層は下層から生まれる性質を有し、これらの二層は複雑な緊張関係で結びついている。
ヒトの共同体内の分派も同じ理由で生まれる。
各レベルにおいて、より小さな集団が次に大きな層の存在を可能にする。

最も説明が簡単なのは15人の層
この層の大きさは毛づくろい派閥の規範と霊長類の新皮質の関係にもとづく自然な同盟規模として予測できる。
サルや類人猿では、毛づくろい派閥の規模は、大きな社会集団で暮らすストレスから身を守るための同盟として機能する。したがって、毛づくろい派閥の規模は集団全体の規模が大きくなるにしたがって増える。毛づくろい派閥は、馴染みの個体以外の者を自分の背中から排除し、集団で暮らすストレスを和らげるためにある。集団が大きければ大きいほど、ストレスが増えるので、余計な個体を寄せ付けないために、より大規模な毛づくろい派閥と同盟が必要になる。この関係を示す類人猿の式によって、ヒトの毛づくろい派閥の規模を予測すると、それはちょうど15人の層になり、これがヒトでは主な機能であることを示唆している。それは社会的支援や、経済的その他の日常的な社会的支援を得るための基盤となる。つまり、いざというときに無条件で駆けつけてくれる人々。

15人の層のうち最内層である5人の層は、より強力な情動的支えを与えるのが主な機能。この層はヒトが他の霊長類より高度なメンタライジング能力をもつために、他の霊長類に見られない心理的な脆さがあることを反映する。心の理論とより高いメンタライジング能力をもつために、他の動物とは違って、ヒトは自分の行動から生じる未来の結果を想像し、自分に降りかかりかねない悪いことを予見する。こうした状況で悲しみを分かち合う相手がいることは、精神を健全に保ち、他の霊長類の社会よりはるかに複雑な私達の社会に対処するために欠かせない。

狩猟採集社会の50人の層がもつ最も明らかな特徴は、彼らが夜をともに過ごすことを好む。私達は夜間の視力がさほどよくないし、地面の上でしか寝られないので、夜には捕食者に対して一番無力になる。そこでどうしても、夜行性の捕食者に対する唯一の防衛作戦としてえ集団の大きさに頼らざるを得ない。小型で樹上性の霊長類は日中に襲ってくるワシなどに注意するのみですむが、より大型で地上性の霊長類は夜行性の捕食者に襲われやすい。ヒヒを襲う三大捕食者はヒョウ(夜行性)、ライオン(おもに夜間に狩りをする)、ハイエナ(夜行性)。
50人の層は女性が食料を集める集団(女性は男性より大人数で食物探しをする)の基盤だが、ヒトがこれほどの大きさの集団をただ植物の根を掘り出したり、木の実をもいだありするだけのために必要としたとは考えにくいので、この層の目的は夜間の捕食者に対する防御と、日中に食料を集めるあいだ安全に目を配る人数の確保。

 

文化は学習されるもので、好奇心と発明の産物。

 

第五移行期:新石器時代以降

第9章: 新石器時代以降――私たちが「人間」になった理由

高密度で暮らすのは相当に心理的ストレスが高い。

狩猟採集者はこの問題を離合集散によって解決した。

しかし、離合集散は、集団で暮らそうという圧力(捕食、襲撃)と分散しようという圧力の間の妥協の産物。

 

音楽(歌と踊り)、言語を用いた物語、そして宗教が、これらのストレスを解消し、適切な規模を持つ共同体の社会的つながりを促進するメカニズムとして進化してきた。

 

サルは安定した集団を形成することによって、より捕獲されやすい仲間がいる際も、捕食者の目を自分たちから逸らすことができる。 こうした社会契約全般の難しさはただ乗りする者(フリーライダー)が出てくること。こうしたただ乗りを減らすためのメカニズムとして社会的な罰が考えられてきた。この意味における罰は二次的利他性としても知られる。ただ乗りする者に罰を与えるのは、社会がより良くなるためのコストを払うことを厭わない利他的な人である。しかし、罰は進化の観点からは問題になる。後ろに隠れて他の人が罰を与えるのをただ傍観するだけの人と比べると、実際に罰を与える人は利他的に振る舞っているので、ダーウィンが言うところの個体レベルの淘汰において進化上不利な立場に置かれる。罰を与える立場にいない人は、罰を与える人の利他主義を利用してただ乗りする者であって、このことがこの問題をさらに難しくする。


群淘汰が答えにならないのは、あらゆる通常の淘汰環境では、利他的に振る舞う人は必ず競争に敗れて淘汰されてしまうからだ。


集団全体が血縁である場合には血縁淘汰がうまくいくかもしれないが、現実的には、血縁淘汰がうまくいくのは利益を得る人が近い血縁である場合に限られる。

 

保全生物学の「侵入者のジレンマ」

発見された場合の罰は非常に重いが、発見の可能性が低い場合、社会契約を守ったほうが長期的にはいい結果になると知っていても、侵入は試す価値がある。

つまり、ただ乗りが見つからない可能性が高く、共同体が大きい場合、どれほど厳しい罰でも効果が得られないことがある。

 

他人を共同体の規則に従わせる心理的に一層効果的な方法は、自分が共同体に誠実で、その構成員に対して義務感を持っていること。

 

共同体意識を高めるメカニズム
・共有された世界観だ
世界観も、話す言葉も、道徳観念も、世界の成り立ちに関する理解も同じ人同士なら、それはおそらく同一の小規模共同体で育ったことを意味し、互いに信頼できることも意味する。
小規模共同体で相手を信頼できる一つの理由は、どちらも血縁関係にある可能性がいたって高いからだ。
・同一の服装規定、髪型、土器の様式、方言のような他の文化マーカーも、共同体への帰属意識を教えてくれる。

 

酒と祝祭

酒はエンドルフィンの大量分泌を促す
アルコール依存症の治療にナルトレキソン(βエンドルフィン・アンタゴニスト)が使われるのはこのため。ルトレキソンはβエンドルフィンのμ受容体に結合することで、エンドルフィンが受容体に結合するのを阻害して分解する。

 

シャーマニズムから教理宗教へ
シャーマニズムは経験に基づく宗教。
教理宗教は聖所(寺院や教会)、祭司の階位性、神学、神(かならずではないが、人生を支配する「高神」がいる場合がある)、幸運を呼び込むために神々をなだめる形式的な儀式と関連する宗教。


永続的な定住地の形成はこの二種の宗教間の移行期だった。

現在でも、遊動生活または半遊動生活を営む狩猟採集民や遊牧民はシャーマに、永続的な定住地で暮らす社会は教理宗教に特徴づけられる。


シャーマニズムは典型的に踊りと歌をともなうため、必要なのは踊ることのできる空間のみ、人々はこれらの儀式用の建造物の周りに仮住まいしていたのかもしれないが、一箇所に集まれば人々の所在がすぐにわかるので、襲撃の危険性が高まる。


儀式用に限られた特別な建造物を立てるという行為は、シャーマニズムの形式に拘らない宗教実践とはきわめて異なる、一種の集団的儀式への意図的な移行を意味する。


形式的な儀式用の建物があるということは、共同体の人々になり代わって神に仕え、普通の人はただ傍観することしか許されない特殊な儀式を執り行う祭司のような特別な身分の存在を暗示する。

 

シャーマニズムから教理宗教への移行にはもう一つ重要な変化、宗教行事の強烈さと頻度双方の変化が伴う。
シャーマニズムでは、トランス状態での踊りやそれに類することが不規則に誰がその必要を認めたときに起き、その間隔はたいてい一ヶ月ほど。
教理宗教では、宗教行事は情動的にはさほど激しくないが、より頻繁に行われる(たいてい週単位)。
つまり、トランス状態での踊りは緊張をほぐすのにきわめて効果的だが、その体験が強烈で、あまり頻繁に行うとストレスになる。

しかし、大きな共同体で暮らすことでストレスがかなり増大するのであれば、宗教行事を短い間隔で行わなければいけない。短い間隔が可能となるのは、宗教行事がより穏やかである場合のみ。宗教行事をより穏やかにする自明の方法は、儀式を行う専門職(いわばプレッシャーに耐える訓練を受けた人々)とただそれを傍観するだけの会衆を切り離すこと。


儀式に参加する人の大半がトランス状態における大きな高揚感を経験しないなら、宗教による共同体の結束効果を強化するために、「高神」が教理宗教で重要な役割を果たすようになった。

 

新石器革命はなによりもまず宗教革命であった。

シャーマニズムのくだけた形式から、教理宗教の組織化された形態への転換。

 

 教理宗教はシャーマニズムという出自からきっぱりと縁を断ててなかったので、いずれも神秘的で忘我的であったため、カルトは祭司が持つ神学的、政治的支配力を損ないかねなかった。したがって、教理宗教の大半(おそらく唯一の例外はヒンドゥー教)は歴史を通して盛んに異端者を迫害した。これらの離脱カルトはやがて世界的宗教となった。

ユダヤ教からキリスト教イスラム
ローマ教会から東方正教会プロテスタント
イスラム教からシーア派、[スンニ派]、スーフィーなどの諸派
仏教から諸々の宗派や分派


教理宗教はこれらの古代の影響を振り切ることはできない。

 

カルト誕生に欠かせないのはカリスマ性のある指導者で、信者の小さな共同体の象徴であり機能上の指導者となる。つまり、特定の神学より、個々の指導者の人格と流儀がカルトの初期の成功にとって大きな役割を果たす。

 

ディーコンのジレンマ

労働の分業が始まると、男性が住居から離れがちの場合、その目を盗んで配偶者の女性と浮気しようとする者がいてもこれを防げない。そうした婚外交渉は女性に利するかもしれないが、男性は別の男性の子を育てるために時間と資源をつぎ込む危険性を背負うことになる。

 

 

https://scrapbox.io/mtane0412/%E7%AC%AC8%E7%AB%A0_%E8%A1%80%E7%B8%81%E3%80%81%E8%A8%80%E8%AA%9E%E3%80%81%E6%96%87%E5%8C%96%E3%81%AF%E3%81%84%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%81%8B

 

 

食事の変化に遺伝子が追従できていないと仮定すると、パレオダイエット、つまり、旧石器時代縄文時代の野草と野生動物を中心とした食生活を真似るというのは一理ある。糖質ダイエットの理屈はこれなのかな。

 

人類は脂肪を貯めるべく、歩行時間を減らすべく、進化してきたのに現代人は脂肪を減らすべく、歩行時間を増やしている。これはますます、太る進化を促していないか。

 

目次
第1章: 人類とはなにか、いかに誕生したのか
第2章: なにが霊長類の社会の絆を支えたか
第3章: 社会脳仮説と時間収支モデル
第4章: アウストラロピテクス――時間収支の危機をどう解決したか
第5章: 初期ホモ属――脳の増大をもたらした要因
第6章: 旧人――料理と音楽、眼と脳
第7章: 現生人類――なぜ繁栄することができたのか
第8章: 血縁、言語、文化はいかにつくられたか
第9章: 新石器時代以降――私たちが「人間」になった理由