病気を飼いならす
従来、ウィルス、リケッチア、細菌、寄生虫などの人の病原寄生者は、宿主である病人を殺してしまうと、病原寄生者自身も死んでしまうので、病原性を次第に減少させ、穏やかな共生関係を結ぶ方向に向かうとされていた。
病原体が宿主に及ぼす影響、すなわち病原性は、病原体の宿主への適応の度合いによって決まるのではなく、動物媒介性伝播などの伝播様式によって決まる。
マラリアが強力な病毒性を保つことができるのは、媒介者が存在しているからである。
マラリアは、蚊という媒介者を経て人間に感染する。
強力な毒性で人間を殺してしまっても、マラリア原虫は蚊の体内で生きつづけ、新たな人間に寄生することができる。
病原体が弱毒化する理由である宿主を殺してしまうと新しい宿主に感染することができないという事を、媒介者が存在することによって克服した。
熱帯熱マラリア原虫は「最近ヒトに適応した」。
三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアは滅多に致死的になることはない。
蚊を媒介としていながら、この違いが生じるのは分布域での媒介蚊が1年のある期問いなくなるからである。
マラリア原虫はその間脊椎動物宿主の中で次の蚊の発生を待たねばならない。
そのためには強い病原性は不利になり、温和な病原性を発達させてきた。
人間の体内に寄生して病気を起こす生物の進化は速い。
寄生された宿主の側は、性を持つことで大量の遺伝子組み換えを可能にして対応した。
いろいろな表現型を持って多様化することで、病原体が示す速い進化に対抗した。
熱帯熱マラリア原虫は「最近ヒトに適応した」。