この本が書かれたのは、1920年代終わり、つまり世界恐慌(1929年)のころ。
1.密集という事実
いままで少数の人しか行えなかった行動を、大衆がし始めた。
施設から人があふれかえるようになった。→密集という事実
人口は変わらないはずなのに、第一次大戦後から、この現象が目に付き始めたのはなぜか。
→今まで集団はあったが、それぞれが孤立して表面上無関係だった。
その生活や精神性が平均化された結果、密集が起きた。
生活の面→劇場や海水浴場に人が充満 精神の面→超民主主義の勝利
「みんな一緒」の精神性の世界
→あらゆる権威の拒絶→大衆の反逆
2.歴史の水準の上昇
大衆支配の二面的
いい面→歴史の水準の上昇・生の高さの上昇
悪い面→凡庸な精神による支配→5章以降
大衆支配のいい面
歴史の水準の上昇
→より洗練された生活ができるようになったこと
物質面
→車や劇や海水浴など、昔は限られた人しかできなかった暮らしをするようになった
精神面
→基本的人権や市民権など、昔は限られた人しかできなかった考え方を援用するよう
になった
3.時代の高さ
時代の高さ→歴史の水準の実感
現代は過去のどの時代よりも優れた生
4.生の増大
生の増大→平均的な人がすることのできる行動や思考の可能性が増えたこと。
時間的増大
・考古学・歴史学の発展
・写真や映像技術の発展
→非常に正確な過去の断片をくれる
空間的増大
新聞・ラジオなど報道・通信技術の発達
→どんなに遠くの物事でも詳細に知ることができる
速度的増大
交通技術の発達
→より短い人生の時間で、より多くの場所へ行ける
肉体的
→現在のスポーツの世界記録は、ほかの時代のどんな記録よりも早い
平均的な現代人は、どんな過去の平均人よりも「潜在能力は」高い
大衆支配の悪い面→5章~11章
5.一つの統計的な事実
19世紀→自由民主主義革命(1848年革命など)
第二次産業革命(イギリス以外は19世紀)
⇒人口爆発をさせ、大衆の「もと」を準備
技術(実験科学+資本主義)+自由主義的デモクラシー
→ヨーロッパ種は100年間で3倍
→これまでで最高水準の社会的生の形式
→最良だからこそ、大衆の精神性が生まれた
6.大衆化した人間の解剖開始
大衆とはどのような存在なのか
→大衆の性質
A)生の欲望の無制限な増大
物質面
19世紀の、生の急激な増大
⇒生きることへの物質的な苦難がほとんどなくなり、潜在能力が増大した
⇒自らの生の物質的拡張を『要求すべき当然の権利』当然と思い込む
精神面
19世紀の革命
⇒基本的人権や市民権が、『要求すべき当然の権利』として一般化
⇒『人は平等』という理念のもとに、すべての差異を否定する
B)安楽を与えてくれた原理や技術(=文明)への忘恩
物質面も精神面も、これまでの歴史の中で『最良』の社会
=19世紀が作り出した社会
20世紀の大衆人が努力してこの社会を作り上げたわけではない
19世紀人:革命の世紀を生き抜いた存在
20世紀人:生まれた時から、困難がない社会にいる
⇒その裏の努力をしらないので、文明を自然物のように当然のものと思い込む
⇒自分の福利にしか興味がなく、その原因とは無縁
大衆人の性質
=努力なくしては成立しない文明を自然物のように思い、自分のしたいことのみを要求する
7.高貴なる生と凡俗なる生、あるいは努力と無気力
高貴なる生
・自分に対して義務や要求を課す生き方
=「貴い人」の在り方/貴族の在り方→ノブレス・オブリージュ)
凡俗なる生
・他人に対して義務や要求を課し、自分は惰性に生きるあり方
=「平凡な人」の在り方
大衆人=平凡な在り方をするが、権力や能力はかつての少数者と同等
⇒支配に従わない(逆らう)=大衆の反逆
8.大衆はなぜ何にでも、しかも暴力的に首を突っ込むのか
支配に逆らうこと→考え方が違うということ
大衆は彼ら自身の考え方に基づいて行動しようとする
→大衆は思想を持ち合わせてなどいない
思想とは、真理に対する王手である。
思想を持ちたいと思う者は、それよりも前に真理を愛し、真理が課すゲームのルールを受け入れる用意をする必要がある。
相手の根本的な立場を尊重しなければ、生産的な議論はできない
→思想は生産されない
大衆人は自分の能力を信じ、支配に逆らう=ルールを受け入れない
→野蛮
思想・意見を持つには理性が必要だが、大衆にはそれがない
→議論をやめ、力による直接行動へ
大衆像
①生まれた時から生は容易と感じていて、自分の生を邪魔するものは何もないと思っている
②その容易さは自分の努力で勝ち取ったものではないので、文明は自然に発生し維持されると思っている
③権力はあるがそれを打ち立てた努力を知らないので、彼自身も努力をせず、あるがままの自分が全く正しいと誤信する
④その結果、諫言を聞かず、自分の意見を押し付けようとする=直接行動
9.原始性と技術
現代文明は科学技術に支えられている。
大衆は自動車が速く走ることや、薬が良く効くことには関心を示す。
それらの実用技術を支えている自然科学一般には関心を抱かない。
実用科学技術は科学者が持つ自然科学の真理への崇敬の念や基礎研究に支えられているので、この大衆の態度は自然科学一般、さらに文明を衰退させることにつながる
10.原始性と歴史
大衆人は,自分がその中に生まれ,そして現在使用している文明は,自然と同じように自然発生的なもので原生的なものであると信じており,そしてそのこと自体によって原始人になってしまっている。
11.「満足しきったお坊ちゃん」の時代
平均人というこの新しいタイプの人間の心理構造を、社会生活の方面からだけ研究すると次のようなことが見いだされる。
第一に、平均人は生まれたときから不思議な楽観を持っている。生は容易であり、ありあまるほど豊かで、なんら悲劇的な限界を持っていないという根本的な楽観である。彼らの中には漠然とした支配と勝利の実感がある。
第二に、この支配と勝利の実感が彼にあるがままの自分を肯定させ、自分の道徳的財産や知恵の財産は立派で完璧なものだと考えさせる。この自己満足の結果として、彼は外部からの働きかけに対して自己を閉ざし、他人の言葉に耳を傾けず、自分の言葉を疑ってみることもなく、他人の存在を考慮しなくなる。だから彼は、この世には彼と彼の同類である平均人しかいないかのように振る舞うことになる。
したがって第三に、彼はあらゆることに介入する。なんらの配慮も内省も遠慮もなしに、つまり直接行動という満足しきったお坊ちゃんあるいは単なる野蛮人の方式に従って、自分の低俗な意見を押し付けることになる。
12.「専門主義」の野蛮
どうやってばらばらの集団が大衆となったのか
→大衆化のプロセス=自由民主主義と『近代技術』
国民一人一人がおなじように市民権を持ち、参政できること
+
なにをやっても原則は自由なこと
↓
人間の大衆化
近代技術=実験科学×資本主義
需要に応じて作る製品も決まってくる『資本主義』を、『実験科学』という哲学で根拠づけることで、無制限の進歩の可能性が生み出された。
→科学こそが近代文明の根本的根拠
科学→人間の大衆化
科学技術は専門化せざるを得ない
→科学者は専門化すればするほど、自分の専門範囲内に自分をとじこめる結果となる。→専門分野以外では素人
科学自体は宇宙の総合的真理を探究する一元的学問
科学者は真理のルールである一元化について素人であるのに、科学を支配
大衆社会と同じ構造
13.最大の危険物としての国家
国家は、努力をしてつくられ維持されてきた、人間社会の創造物であり、「社会をよくするための技術」
20世紀の人間はその努力を知らず、国家は自然とあるものだと感じている
社会がその生をよりよくするために国家を作ったはずなのに、その優位が逆転
社会の生を犠牲にしてでも国家を維持・自己成長させようとする(国家主義)
社会は国家のために生きなければならなくなる
14.世界を支配しているのは誰か
「支配」とは力に基づかない「人間の間の安定した正常な関係」
人間社会において支配という現象の根源とは何かといえば、すなわち世論である。世論は力でどうにかなるものではないことは自明である。
つまり支配することは、世論の均衡状態を保つことであり、世論に逆らっては支配はできない。
15.真の問題に辿り着く根本原因→大衆が非モラル的なこと
モラルとは何かの権威や規範に従うことを意味するが、彼らはそれを拒絶したがる(規範・権威を拒絶するという規範に従っている)
目次
フランス人のためのプロローグ
第一部 大衆の反逆
一 密集の事実
二 歴史的水準の上昇
三 時代の高さ
四 生の増大
五 一つの統計的事実
六 大衆化した人間の解剖開始
七 高貴なる生と凡俗なる生、あるいは努力と無気力
八 大衆はなぜ何にでも、しかも暴力的に首を突っ込むのか
九 原始性と技術
十 原始性と歴史
十一 「満足しきったお坊ちゃん」の時代
十二 「専門主義」の野蛮
十三 最大の危険物としての国家
第二部 世界を支配しているのは誰か
十四 世界を支配しているのは誰か
十五 真の問題に辿り着く
イギリス人のためのエピローグ